「お父さんの服と一緒に洗わないで!」の科学的根拠

私はいつも大学で分子生物遺伝学の講義をするときに、「ちょっと女子学生の皆さんに伺いますね。この中で、これまでの人生、まぁ貴女たちだから、二十年そこそこでしょうが、これまでの人生で、お父さんのことを〝臭いッ!〟と思ったことがある人、手を挙げて?
というと、7割くらいの女の子たちは手を挙げます。
「エッ! ほんま? それだけ? 全員が手ェ挙げるかと思ぅたけど、ホンマにそんなモン?」
その私の言葉に、女子学生のみならず、男子学生の諸君も、怪訝な顔をします。
…あのね、血液型ってあるよね? じゃあ一番前の、青い服のお嬢さん、血液型言ってみて」
…A、B、O、AB…
「正解、そうやね。けどそれは、赤血球の血液型なんですね。人の血液には白血球もありますね。じゃあ白血球にも血液型があっても、不思議じゃぁないですよね。知ってるかな? じゃあ隣のメガネの彼、白血球の血液型、言ってみて?」
「……」
「あれっ? 知らへん? じゃあその隣の、マスクの、そうそう、君。白血球の血液型は?」
「……」
「あれっ、君も知らへンの? ほんなら、白血球の血液型、誰か説明できる人いるかな?」
HLA…
小さな声が、講義室のどこからともなく上がります。
「オッ、だれが言うたン?それが正解やッ!白血球の血液型をHLA抗原と言います。白血病の治療に臍帯血を用いるなんて話、一度は聴いたことありますよね。臍帯血バンクなんてのも、テレビでCMやってますから、ご覧になった方も多いと思います。その骨髄バンクでは膨大なボランティアさんの臍帯血を保管してて、患者さんの免疫機構とマッチングをして、拒絶反応が起こらないということを確認してから骨髄移植をします。そのマッチングに必要なのが、白血球の血液型、つまりHLA抗原の適合性なんです……」という感じで講義が始まるのです。

さぁお立ち会い。そもそも「HLA抗原」というのは、1954年に発見されました。HLA遺伝子によってそれぞれの型が生まれた時に決まっているのですが、そのHLA遺伝子は、常染色体の6番目にあり、免疫や抗体の組み合わせの半分を父親から、半分を母親から1個ずつ受け継いで、その子供の身体では父親と母親から受け継がれた「HLA遺伝子が2つ一組でペア」を作って、その子のHLA遺伝子が決まり、その遺伝情報に基づいて、その子供特有の「HLA遺伝子型」が決まります。

白血球の血液型とも呼べる性質から「ヒト白血球抗原」と呼ばれ「Human Leukocyte Antigen」の頭文字から名付けられました。
このHLA遺伝子の情報を基に作られるのがHLA抗原ですが、その後の研究で、白血球だけでなく身体中のあらゆるタンパク質を構成する元になることが判り、今では「ヒト白血球抗原」というより「ヒト主要組織適合抗原」という呼び方が一般的です。

大雑把にいいますと、HLA抗原には「A」「B」「C」「DP」「DQ」「DR」型の6つのパターンがあり、本当はもっと複雑なのですが、これだけでも「6×6乗」通りの組み合わせになります。46,656通りです。実はもっと複雑ですが、赤血球みたいに「A」「B」「O」「AB」の4通りではなく、何万通りもの型があるのです。

HLA遺伝子は実は別名を「恋愛遺伝子」とよばれていますここでようやく「お父さん、臭い!」の話になるのですが、ここまではこの話を説明するために知っておいて欲しい基礎知識で、退屈させてゴメンナサイ。

まず、体臭とは何か、という説明をせねばなりません。これもまた退屈な話にお付き合いさせますが、ごめんなさいね。さて、体臭は、頭皮や胸元、耳の裏など、皮脂の分泌が盛んな場所から強く発されます。加齢臭の原因については、かなり以前から「2−ノネナール」が原因物質だと言われています。この「2−ノネナール」を作る材料の1つが「9−ヘキサデセン酸」で、この「9−ヘキサデセン酸」は皮脂に存在します。

皮脂の主成分は「グリセリン脂肪酸エステル」といい、この「グリセリン脂肪酸エステル」には幾万ものという種類があって、それらの違いや、その人の皮膚に常在している細菌によって分解される過程でも違いが出ますので、「体臭」は人によってまったく異なるのです。さらに、そこに加齢をはじめとして、栄養状態や、睡眠、喫煙、飲酒、病気などの要素が加わり、その人の固有の体臭が形成されるのです。

ちなみに私は何となくですが、「がん」患者さんの匂いが判ります。何とも言えないのですが、これは医者としては、天から与えられた恵まれた才能かも知れません。別に自分が優秀な医者だと言ってる訳ではなく、もちろん「ハズレ」もありますので、あくまで、私は診断過程の一助として使っているに過ぎません。

話が逸れましたが、こうして「匂い」は、我々人類が穴グラ生活をしていた時代、繁殖のための相手を選ぶのに臭いを頼りにしていた証拠で、男は特に若い女性と年増の女性は鋭敏に嗅ぎ分けることができます。そして女性は繁殖可能な年齢になると、特に近親者の〝匂い〟を避けるようになり、これは近親交配を避けるために、進化の過程で「ヒト」が獲得した能力の1つなのです

HLAの型は遺伝子で決まるため、理論的には親から子に「匂い」の一部が受け継がれるわけです。体臭と遺伝子についていい匂いと感じる人(異性)は自分と遺伝子が遠い。HLA型が似ている、共通項がある、ということは、血縁的に近いということです。体臭と遺伝子について、いい匂いと感じる人(異性)は自分と遺伝子が遠いということです。
逆にHLA型が似ている、共通項がある、ということは血縁的に近いということで、HALが遠い組み合わせほど免疫学的により強い個体になり、生存率も高くなるのです。

ですので「お父さんの服と一緒に洗わないで!」と娘さんに言われたお父さんは、傷つくどころか、娘さんが立派な「メス」に成長した。本当に自分の血を分けた娘だ。ということの証拠で、むしろ喜ぶべきことなのです。

HLA遺伝子の型が自分のものと遠ければ遠いほど、その異性の体臭を「いい匂い」と感じます。少し哲学的ですが、生物の目的は命を繋いでいくこと自分の遺伝子を残していくことです。生殖を行い、強い個体を残していくために、生物は自分にない特徴を持っている個体と交配し、優秀な遺伝情報を子供に残すのです。

ですので思春期の娘さんに「お父さん、臭い!」嫌われるのは、このHLAが非常に近いからで、両親から半分ずつ受け取り、HLAの配列が極めて似ているため、父親の体臭を「臭い」と感じるのです。
思春期になるとお父さんが嫌いになる女の子がいることは、近親相姦が起こらないように、自然の力が仕向けているのです。「お父さんの洗濯物と一緒にしないで」は「匂い」で自分に近い遺伝子を遠ざけているのです。まさに「ゲノムの声」なのです。

近親相姦、これは法律学的にも、宗教学的にも、倫理学的にも許されない行為です。ですが私は学生諸君に言います。「君たちは生命医科学を学ぶ学生なんだから、近親相姦がなぜいけないことなのか、生命医科学的に解説してみてくれる?」

これまた、「判りません」「えっ?……」「ハァ……」となかなか明確な答を言ってくれる学生さんはいないのですが、誰がか「異常遺伝子の集積を…」なんて言ってくれると、してやったりで、「はい、君、その通り」パチパチパチ…。

「近親相姦は異常遺伝子のホモ接合体を増やす確率が高まることから、間違った行為。これが生命医科学的な解答です」

HLAは免疫と呼ぶべき存在だから、いろんな種類を持っている方が強くなります。そのため自分とは「同じ匂いがしない」パートナーを探し求めるのです。

面白い実験があります。若い男女を対象にした実験で、男性が着ていたシャツの匂いを嗅がせ、「好ましい香り」から「勘弁してぇ」までの評価を統計すると、女性は自分が持たないHLAのシャツほど「好ましい」とする回答が多かったのです

でね、もういちど女子学生諸君に、このことをふまえて、最初と同じ質問をします。
「これまでの人生でお父さんを臭いと思ったことがある人、手ェ挙げて」
今度はほとんどの女子学生が堂々と手を挙げます
「そう、それで正解。君たちが間違いなくお父さんの子供だという証拠なんですよ。よかったね」

そして最後に私は言うのです。
「男子学生の諸君、人ごとやと思って聴いてたらアカンで。将来、君らも結婚して、子供が出来るわな。もし女の子が生まれたら、今日の講義を思い出してね。あぁ、この娘もそのうち俺のこと〝臭いッ〟て言うンやろうなぁ……って

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