PM2.5って、なに?
2014/05/15
粒子状物質のことを英語では「particulate matter」と言い、その略で「PM」と呼ばれます。マイクロメートル (千分の一ミリ) 単位の大きさの固体や液体の微粒子のことを言い、主にゴミを燃やしたときに出る煤煙、風で舞い上がった土壌粒子、工場や建設現場で生じる粉塵、燃焼による排出ガスや石油からの揮発成分が大気中で変質してできる粒子など、内容はさまざまです。粒子状物質という呼び方はこれらを大気汚染物質として扱うときに用います。
当然のことながら、これら粒子状物質は主に呼吸器系に沈着して健康に影響を及ぼします。粒子の大きさにより体内での反応や健康影響は異なりますが。その影響を推測する測定基準として、粒の大きさで分類した「PM10」や「PM2.5」など、粒子状物質の濃度が高いほど呼吸器疾患や心疾患による死亡率が高くなるとされています。また、PM10よりもPM2.5のほうが、より健康に悪影響を及ぼすとされています。
大気中に浮遊する微粒子のうち、粒子径2.5μm以下のものを「PM2.5」と定義しています。しかしこれはあくまで粒子の大きさを表す言葉であって、中身が何かはまだはっきりと判っていません。ただの砂なのか、ダイオキシンなのか、カドミウムなのか、化学的な成分は判っていないのです。そんな専門家が判らないもの、それが人体にどんな影響があるか、我々医者に判るはずなんてもっとありません。
言えることは「身体に良いものでないに違いない」ということだけです。
ここで私がいちばん恐れているのは、ディーゼル排気微粒子、つまりディーゼルエンジン車の排気ガスに含まれる微粒子です。これがPM2.5の大部分を占めているという報告もありますが、ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれるNOx(過酸化窒素)は「発がん性」という側面から考えると、最もタチが悪い物質です。
タバコが悪いと良く言われますが、NOxに比べれば可愛いもんです。わたくし、これでも発ガンとその予防に関する動物実験で博士号を取りましたもので、このあたりはちょっとうるさいのです。
おそらく、ですが、PM2.5には、以下のようなものが含まれていると想像できます。
1.煤煙/石炭や石油の燃焼により発生する煙の粒。
2.粉塵/コンクリートや建造物の破砕時に発生する埃のようなもの。
3.土壌粒子/砂嵐などで舞い上がる砂漠の砂。例えば黄砂などがこれにあたります。成分としては砂ですから、ケイ素 (Si)、アルミニウム (Al)、チタン (Ti)、鉄 (Fe) などの鉱物です。
タイヤ摩耗粉塵/意外に多いのがこれで、車が走るときには当然、道路との摩擦でタイヤのゴムはすり減ります。これが粉塵となって空気中に飛散します。
他にも、宇宙塵、星間物質が宇宙から降下してくるものまで、数え上げたらキリがありません。
しかし、それよりも恐ろしいのは、二次生成粒子と呼ばれるもので、もちろんこれもPM2.5には含まれると考えられます。石炭や石油、木材の燃焼、原材料の高温処理、製鉄などの金属の製錬、要するに工場から出る廃液や煙が空気中で化学変化して、有害物質となるものです。もちろん、工場だけが犯人ではありません。我々が普段生活している際に、例えば料理のときに出る焼き魚の煙だって、お風呂を沸かす時にガスを使うとしたら、燃えかすの微粒子が大気中に放出されます。
成分としは、硫酸塩 (SO42-)、硝酸塩 (NO3-)、アンモニウム塩 (NH4+)、水素化合物)、有機化合物、もっと怖いのは、鉛 (Pb)、カドミウム (Cd)、バナジウム (V)、ニッケル (Ni)、銅 (Cu)、亜鉛 (Zn)、マンガン (Mn)、鉄 (Fe) などの重金属粒子です。今ではたいていの工場では、環境問題に真剣に取り組み、廃液や煤煙にもちゃんと処理を施していますが、無害にしたものでも、それが大気中で二次的に化学変化を起こして有害物質に変わる事は充分にあるのです。これもPM2.5の仲間になります。
さてそれではそれらを人間が呼吸して吸い込んだ時、鼻、喉、気管、肺など呼吸器はどうなるでしょうか。粒子径が小さいほど、肺の奥まで達します。研究では粒子径が5μm以下になると肺胞にまで達します。PM2.5は当然5μm以下です。個人差はあるでしょうが、人の気道や肺で炎症反応を起こすでしょうし、喘息やアレルギー性鼻炎を悪化させる作用や呼吸器感染症を発症することは、誰にでも想像できることです。そして呼吸器に悪影響が出ればそれは循環器系、脳神経系へと作用が拡大していくのは自明の理です。
ですから先ほども申しましたように、「PM2.5がどうたら」と騒いでいますが、それは単に粒子の大きさを表す言葉であって、成分すら何なのか、ダイオキシンなのか、硫化水素なのか、重金属なのか、専門家もよく判ってないのに、それが人体でどう悪影響を及ぼすかなんて、医者の私どもには、もっと判りません。
特に恐ろしいのは先ほども述べましたが、ディーゼルエンジンの排ガス起源のディーゼル排気微粒子です。最近ようやく、法律でもディーゼル規制がとやかく言われ始めましたが、ディーゼルエンジンの排出するNOx(過酸化窒素)の発がん毒性の凄まじいまでの強さについては、研究者の間では20年前から常識でした。でもそんなことを大々的に発表したら、自動車輸出大国である日本経済の根幹を揺るがす大問題ですので、みんな口をつぐんでいただけです。
私は以前から、良く言っています。「高速道路脇のマンションに住んでるノン・スモーカーより、六甲山の頂上に住んでるヘビー・スモーカーの方がよっぽど、がんにかかりにくい」なんて…これって、愛煙家のわたくしの、悔しまぎれの自己弁護だと思って、一笑にお付しくださいませ。