医療法人社団 甲南回生
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インフルエンザ~2

インフルエンザ~2

2015/01/21

さて今回は前回の続きです。先月の予言(?)どおり、今年は未曾有のインフルエンザ大流行になっています。この原稿を書いている1月17日、すでに警報レベルを突破したというニュースが飛び込んできました。
 今年初、とのことですが、これはそんなに驚くことではありません。だいたい例年、一度は警報レベルを超えるものです。ただ昨冬で言うと2014年の二月の最終週あたりで警報レベルを超えたのですが、今年は昨年末から一月前半で早くも警報レベル超えに達してしまった、というところで、この高レベルはこのまましばらく続くと思われます。
 理由は前回も申し上げた通り、通称A香港型、すなわち(A/H3N2)のワクチンの遺伝子型が異なっていた。つまり流行予想が外れて、効かないワクチンだった。というより、予想と違う型のA香港型インフルエンザが流行してしまったからだと、私は推論しています。
 はっきりとした厚生労働省からの報告なり通達がないので、あくまで私の予想ですが、まぁお役所が間違いを認める通達をわざわざ出すとは考えられませんので、おおかた私の予想で当たりでしょう。
 よく、ワクチンを注射しておけば罹っても軽くすむとお考えの方がいらっしゃいますが、これは間違いです。ワクチンというのは「オール・オア・ナッシング」つまり効いて抗体ができるか、できないか、のどちらかしかありません。
 上記の理由から、確かに今年は流行の始まるのも早かったですし、すでにこの時期で警報レベルを超えたというのも異例のことですが、とにかく今年は今後も大流行で間違いないでしょう。ですが、いまは簡易検査キットもありますし、それに何より特効薬が4つもある。これは画期的なことです。
 簡易検査キットのなかった頃、というより15年前にはそんなものなかったのですから、検査キットができたこと自体、私なんぞは驚きなのですが、それまで私たちはインフルエンザを問診と、そして顔つきで診断していました。「インフル顔貌」と言って、ほっぺたが赤く、眼がトロンとしている、生気がない、などのものすごく特徴的な顔つきで、これは私の世代の医者ならだいたい顔つきでインフルエンザを当てることが出来ます。もちろんハズレもありますよ。そんなもん、人間のすることですから。
 そして今でこそタミフルやラピアクタなどの特効薬があって、5日もあれば学校や職場に戻れますが、私が医者になった頃には、最低でも一週間は高熱が続いて、自分の免疫力でウイルスを退治して、そのあと消耗した体力が戻るのに3週間はかかりました。インフルエンザは、かかったら最後、あぁこの人、一ヶ月は使い物にならないな、という病気でした。
 私の印象からすると年内に罹る(かかる)人はみな罹って、本当に大晦日も元旦もインフルエンザの患者さんの診断と治療に明け暮れてしまいましたが、年明けになってちょっと減って来たという印象でした。
 ですが私、忘れておりました。「インフルエンザは子供が媒介する病気」であることを。デング熱は蚊が媒介しましたが、インフルエンザは子供が学校とか通学の電車やバスで貰って来て、家に持ち帰り、家族にうすつ病気だと言うのは言い過ぎではないと思います。そうです。冬休みで学校がお休みだったから、年明けに患者さんが少なかっただけでした。
 3学期が始まり、子供さんたちがまた学校へ通い出すと、それに伴ってまた患者さんが増えてきました。大人も子供もです。例年より一ヶ月以上も早く警報レベルを超え、おそらくこれは3月初めまで続くと予想します。やはり大流行の様相を呈してきました。有り難くないことですが、前回の私の予想は大当たりです。ワクチンが当たりゃあ良かったのにねぇ。で、今年のインフルエンザの特徴は、
 
 1.熱があまり高く出ない(平熱で元気そうなお年寄り、まさかねぇと言いながら検査したら、3秒で検査陽性を経験。ただし子供はやっぱり高熱が出ることが多い)
 2.とにかく頭痛が特徴。まずほっぺを見て赤かったら、体温を伺う前に「頭は痛いですか」と訊いています。
 とにかく大人も子供も、言葉にできない倦怠感、頭痛、頬が赤い、眼力がない。そういった症状を見せれば病院へお願いします。
 
 ただし、親御さん方にこれだけは注意しておきたいことがあります。
・学校で流行っているから検査してくれと言って子供さんを連れて来ないで下さい。インフルエンザを発症してないと検査しても意味はありません。潜伏期間でも検査は陰性です。何か異常を訴えてからでないと検査は陽性に出ません。そして発症後12時間を経過しないと、やはり検査は陰性です。でも、最近は発症後3時間でも判定できるキットもあります。うちは今年から全部それに変えましたが、それでも発症後3時間です。
・うつったかも知れないから薬をくれと言って来ないで下さい。今あるインフルエンザの特効薬は全て「ウイルスの増殖を止めるもの」ですので、予防的投与の価値は低いです。発症して初めて、特効薬は真価を発揮します。入試前だから予防的に飲んでおきたいというのは、お気持ちは判りますが、薬理学的にはそうとう無駄なのです。
・お姉ちゃんがインフルエンザだったからと言って弟さんを連れて来ないで下さい。検査しても陰性です。でもそれで罹ってないとは言い切れません。そして潜伏期間は感染してから3日から4日です。さらに解熱後(平熱に戻って)48時間は感染性がある、つまり他人にうつします。以上から計算すると、家に一人でもインフルエンザの患者が出れば、家族全員が一週間の警戒が必要となります。
・インフルエンザに罹っていると判って家に帰ってから、その人を隔離しないであげて下さい。無駄です。病院に来る前に家中ですでにウイルスをばら巻いています。病院で感染が確認されてからでは手遅れです。インフルエンザのウイルスはものすごく強い感染力を持っています。例えば満員電車に一人だけインフルエンザの患者さんが乗っていたとします。その患者さんが一発クシャミしただけで、その車両に乗っている人全員の服や髪の毛にウイルスが付着します。ですので、家族に一人でもインフルエンザA型の人が出れば、今年に限ってはワクチンを注射していても、だれも全く安心できません。
・簡易検査キットは鼻か喉の奥に綿棒を突っ込みます。これ、本当にかなり痛いです。でもこれだけは避けて通れません。大人も子供も乳幼児も、泣いてでも我慢して下さい。「鼻に棒を突っ込まないで検査して下さい」などと、無茶は言わないで下さい。医者だってやりたくてやってる訳ではないのです。ごめんね、と心の中で謝りながら、手は無慈悲に動きます。
 
 じゃあ私はなんでここ何十年もインフルエンザに罹ってないのでしょうか。今年のワクチンはハズレだというのに。答えは簡単。去年のA香港型インフルエンザの抗体を持っているから。つまり昨冬、A香港型に罹った人はかなり安全です。何故ならいま流行っているのは、去年と同じA香港型ウイルスだからです。
 医者は毎年自分でワクチンを注射しますし、それに私なんぞ毎年、五百人近いインフルエンザの患者さんを診察していますから、たいていのインフルエンザ抗体を持っているのです。まぁそういう意味では医者の血液ってそうとう汚染されているという、ちょっと自虐的な言い回しをしても良いかもしれませんね。
 とにかく今年は、頭が痛いと言ったらインフルエンザを疑って下さい。でもそれだけで病院に行っても検査をしては貰えません。前述のように結果の信頼性に期待が持てませんし、鼻が痛いだけです。少なくとも3時間以上は様子を見て、どんどん症状が重く、全身の倦怠感や節々の痛みを訴えはじめるようであれば、まず間違いありません。大急ぎで医療機関へ。それ以上待つのは患者さんが辛いだけですから。

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