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がんについて

がんについて

2017/06/05

 今ちょうど、春の大学講義シーズンで、いろいろな大学に講義に出向いております。そのためチョコチョコと休診のことがあり、皆様にはご迷惑をおかけしています。いちおう一ヶ月以上前には院内に貼り紙をしているのですが、なかなか皆さま、気付いて下さらず、翌日お叱りを受けております。でも、決して遊びに行ってるわけではありませんので、お許しください。
 
 さて、医学部もしくはそれに関連する大学生相手に「何で〝がん〟にかかるの?」って訊かれて、君たちはどう答えるのかな? と尋ねると、まず正解が出ない。遺伝子が…とか、DNAの損傷が…とか、がん家系が…とか、いい線いってるんですけど、正解じゃあない。答えは「がんにかかるのは偶然」なのです。
 
 話は変わって、人は何歳まで生きることができるでしょうか? 人類がこれまでに到達した信頼できる最高齢は、フランス人のジャンヌ・カルマンという女性で、122歳と164日です。122歳まで生きられるのは400億人に1人という統計もあります。これまでに人類が122歳まで生きた可能性は12%という数字もあります。実際に122歳まで生きた人が居るのですから、100%なんですけどね。これが123歳になると800億人に一人、過去に人類が123歳まで生きた可能性は6%と、もう訳の判らない話になりますが、これまた話は変わって、シエラレオネ共和国という国をご存知でしょうか?
 
 アフリカ北西部にある国ですが、数年前、エボラ出血熱の大発生があった時にチラッとニュースで流れたくらいで、日本で知ってる人はほとんどいないと思います。でもこの国はあることで世界一なんです。それは国民の平均寿命が世界で一番短いこと。統計年度によってちがいますが、シエラレオネの国民平均寿命はなんと46歳。二番目に寿命が短いレソトが50歳ですので、ダントツの一位です。でもアフリカの西の方って、けっこう50歳そこそこっていう国がたくさんあります。昔の話ではありません。いま現実に、この瞬間、地球の裏側で起こっていることなんです。
 
 その原因は、たび重なる「内線」、「飢餓」、そして「エイズ」の三つ。シエラレオネで生まれた子供の4人に1人は、5歳の誕生日を迎えることができません。ところが日本人ときたら、女性で89歳、男性で81歳、世界1位と3位です。世界最短と比べなくてもいいけど、それでもとんでもない長寿の国なんですね。もちろん日本人だって、縄文時代の人骨の化石を調べて判ったことですが、縄文人の平均寿命は31歳、江戸時代だって平均寿命は44歳です。
 
 ちなみにですけど、「五十肩」という病気は江戸時代の医学書には「長寿肩」と記されています。五十肩になるまでよく長生きしたね、ということでしょう。ですので、江戸時代の女性は更年期障害を知らない、とも言えます。なぜ今の日本人がかくも長生きなのか、その理由は上・下水道に清潔な衣食住など「高度に整備されたインフラ」、「医療の高度発展」、そして世界に冠たる「国民皆保険制度」です。
 
 そして話が戻って「がん」ですよ。がんは細胞の突然変異です。遺伝的要因はがんの発生の原因でいうと、わずか5%です。残りはなにかと言うと、例えば喫煙が30%、肥満が30%、飲酒が3%、紫外線は2%、つまり生活環境因子が95%を占めるのです。遺伝することが判明しているがんは、大腸がん、乳癌、子宮体がん、前立腺がんの4つだけ。これも必ずと言うわけではありません。上記4つのがんの中には、遺伝で発症するタイプのがんがあるというだけです。
 
 さて、がんは細胞の突然変異ですから、身体のどこかの細胞が偶然、がん細胞になる。でもそれがそのまま成長するわけではなく、人の身体にはがん細胞を消去する幾重ものセキュリティ・システムがあります。それをくぐり抜けて直径5ミリまで成長するとようやく画像診断、つまりエコーやCTやMRIで初めて「がん」と診断できるのです。
 
 いま、日本人の2人に1人はがんにかかると言われています。これは何も日本人が、がんにかかりやすい人種であるとか、民族であるとか、そう言うことではありません。日本人がとんでもないご長寿だから、長生きすればするほど「がんにかかる」という「偶然」に当たる確率も増えます。それだけのことなんです。
 
 今の日本の医療体制だと、心筋梗塞や脳卒中ではまず死にません。20年前だったらそのまま「あの世行き」でしたね、という人がすぐ退院して普通に社会でバリバリ働いている。金持ちであろうがそうでなかろうが、健康保険証さえ持っていれば、世界最高水準の医療を受けることができる。そんな国、日本以外ありません。キューバがそれに近いくらいです。社会保障大国と言われる北欧の国々でも、インフルエンザだと思うので診てくださいと医療機関に電話したら、3日後の何時にお越し下さいと言われます。手遅れです。
 
 今はそれほど酷くはなくなっていますが、ちょっと前までアメリカでは、救急車で病院に運ばれて来た患者に、医者は「どうされましたか? どこが痛みますか?」と訊く前に、最初に「お前、金は持ってるか?」と訊きます。もしお金はなかったとしても、テレビで宣伝している保険会社の医療保険とか、退役軍人会の保険とか、勤め先が社員保険精度を持っている大企業なら、どんなに下っ端で年収が低かろうが、病院側は取りっぱぐれがないがないことが判ればちゃんと診療してくれます。そうでなければ、残念ですがお引き取りください、となります。
 
 そしていま、がんですら治せる時代が目前まで来ています。直径5ミリになるもっと前、遺伝子の突然変異の段階でそれを見つけるm-RNA遺伝子診断、血液4滴で全身のがんのリスクを判定できるヌクレオソーム検査、手術不能の末期がんを転移巣も含めて手術可能なまで縮小させる遺伝子治療。これらは保険適応にはなっていませんが、お金さえあれば、超早期発見して、がんを完治させることも不可能ではない時代に入ろうとしているのです。日本に生まれて良かったとは思いませんか?

 

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