医者も知らない、クラミジア肺炎 〜咳が全然とまらない!…1
2015/03/26
一週間以上咳が続く…。夜、布団に入ると咳が出て止まらない…。
こういう患者さんがよく来られます。ちょっと勉強しておられるドクターなら、すぐに「マイコプラズマ肺炎」と、「百日咳」の抗体を血液検査で調べて下さいます。ところが「クラミジア肺炎」まで調べてくれる医療機関はあまりありません。
でも、実際にはクラミジア肺炎だと判明する方が、ものすごく沢山おられるのです。
私も以前は百日咳とマイコプラズマだけを調べていましたが、3年ほど前から、何かの雑誌を読んでいて、実はクラミジア肺炎が、臨床の現場では、いちばん多く見られる、というようなことを書いてあり、ヘェッ、じゃあ今度からそれも調べようと、正直なところ、ものすごく軽い気持ちで検査項目を追加しただけでした。
ところが、本当にいちばん多いのがクラミジア肺炎だと気付かされるのに、そんなに時間はかかりませんでした。調べた人、ほとんど「当たり」なのです。
もちろん患者さん全員を検査するのではありません。咳が出て止まらない、といってわざわざ医者を訪ねてこられるわけですから、そうとうひどい人に決まっています。誰だって好きこのんで医者にかかりたいとは思いませんからね。眠れないほど咳が出て困っているから、うちにこられるのです。
そしてその中でも、痰がほとんど出ない、乾いた音の咳をする人、こういう人だけ、血液検査をします。「マイコプラズマPA抗体」と「百日咳菌抗体」と「クラミジエ・ニューモニエ・IgM」の3項目です。
実は、夜に咳が出るのは当たり前なのです。夜は体の緊張をほぐしリラックスするための副交感神経が、より働くようになります。
交感神経・副交感神経と言うと、実は医学生でも避けて通りたくなるほど覚えることが多くてややこしいのですが、これは簡単。これから殴り合いのケンカをする…という時に働くのが交感神経。そろそろ寝よっかな…という時が副交感神経だと覚えてしまえば、だいたい当てはまります。
つまり、副交感神経が優位になる夜間は気管支が収縮しやすくなるため気道が狭まり、咳が出やすくなるのです。でも、眠れないほどひどい咳、となると話が違います。なにかの病原体に感染していると考えるのが筋です。
そして「疑い」の患者さんのうちおよそ8割の方がクラミジア肺炎の抗体価が陽性、たまに異常なほど高い数字が測定されることもあります。ほとんどクラミジアが当たります。
先日、東京で開業している友人とその話になりまして、その先生は大学の助教授を辞めて開業された、非常に勉強熱心な先生ですが、私がクラミジア肺炎も一緒に調べていると言うと…勉強になった、明日からすぐに検査の項目を増やす…とたいそう驚いて下さいました。
実際、医者も知らない「隠れ病い」がクラミジア肺炎だと思います。っていうか、医者だ医者だとテングになってちゃぁいけません。この世の自然の法則のうち、人間が解明して判っていることなんて、全体から見ればチリやホコリくらいのことです。現代科学の最先端、なんて言葉をよく耳にしますが、たぶんゴールから見たら、いや、人間がゴールにたどり着ける日は決してこないと思いますが、そんなものは「マラソンの第一歩目ていど」のことだと思います。
話が逸れましたね、クラミジアに戻りますが、ここに述べた三つの肺炎、なぜ多くのドクターが見逃すかと言いますと、私の悪いクセで、ついそういうヘリクツを考えてしまうのですが、たぶんこういうことだと思うのです。
日本の医学部の学習カリキュラムでは、「マイコプラズマ肺炎」「百日咳」は小児科の講義で教えている。つまり、いま医者と名乗っている先生方のほとんどが、この病気は「子供がかかる病気」だと認識している。
医師国家試験の「ヤマ」としては、マイコプラズマ肺炎はヤマ中のヤマであるが、やはり小児科の問題として出題されることが多い。一方、クラミジアは性行為感染症としての尿道炎、もしくは眼科領域の眼瞼感染症であるトラコーマの原因微生物として医師国家試験に出題されることが予想される。よく似た病態で「オウム病」という人畜共通の呼吸器感染症はよく出題されるが、厳密にはクラミジア肺炎とは別の疾患で、国家試験を控えた医学生はオウム病はしっかり勉強するが、クラミジア肺炎の項目はしばしば「飛ばす」。
…というようなことだと思うのです。
さらに言うなら「重症化や劇症化することはまず無く、抗生物質が非常によく効き、耐性菌などの報告もない」ということも、軽んじて見られる一因だと思うのですが、反面、「放置すれば長期化し、慢性化する。経口の抗生物質が著効するが、最低でも2週間、場合によっては一ヶ月近く飲み続けねば根治しない」というとても厄介な部分もありますので、やはりきっちり診断して、しっかり治していただかないといけない病気であることも事実です。
クラミジアというと、多くの人は尿道炎または性行為感染症として認知されているため、恥ずかしい病気というイメージが先行することもあり、私のクリニックでは以下のような疾患説明書を作ってお渡ししています。次回は、その説明書をご案内します。